抗がん剤治療のやめどき(後編)―命の内容・質を大切にする
- TOP
- 抗がん剤治療のやめどき(後編)―命の内容・質を大切にする
抗がん剤治療のやめどき(後編)―命の内容・質を大切にする2024.01.06
前回は、『抗がん剤治療のやめどき(前編)―医学・医療というよりは、生き方の問題』と題して、がん相談コラムをお届けしました。今回は、『抗がん剤治療のやめどき(後編)―命の内容・質を大切にする』と題して、藤沢市にあるかつや心療内科クリニックからコラムをお届けします。
本コラム後半の【Column in Column】では、抗がん剤の作用メカニズムを化学的に説明しました。抗がん剤により、どのように細胞が破壊されるのか、そのイメージを掴んで下さい。
なお、前編と同様、本コラムでは、胃がん、大腸がん、肺がん、乳がん、子宮がん等々、臓器に塊を作るがんについて書きました。抗がん剤治療で治る可能性がある急性白血病や悪性リンパ腫などの血液のがんは、本コラムの対象外ですのでご注意ください。また、塊を作るがんなのですが、睾丸のがんと子宮絨毛がんも本コラムの対象外です。
【Column in Column】 目次
抗がん剤の医学・医療的事実の復習
まず、前回お届けしたコラムの復習をしたいと思います。抗がん剤の医学・医療的事実として、二つ挙げました。
■第一に、胃がん、大腸がん、肺がん、乳がん、子宮がん等々の臓器に塊を作るがんについて、手術ができないくらい大きくなった場合、再発した場合、遠隔転移した場合、抗がん剤で治すことはできないということ
■第二に、抗がん剤の副作用は、激烈ということ
これらの事実を否定する医師はいないと思います。皆さんに、これら二つの事実を、こころにとめておいて頂ければと思います。
抗がん剤の医学・医療的事実③-抗がん剤は、毒薬である
抗がん剤は、毒薬です。皆さんを脅しているわけでは、決してありません。重要な事実ですので、知っておいてほしいのです。世界最初の抗がん剤は、化学兵器として用いられたアルキル化剤であるナイトロジェンマスタードです。1940年代のことでした。アルキル化剤は、細胞内の遺伝子(DNA)を破壊する薬剤です。DNAが破壊されれば、もちろん、がん細胞も正常な細胞も破壊されます。アルキル化剤は、現代においても、非常によく使われている抗がん剤なのです。
日常の医療で使われている薬が毒薬だなんて嘘でしょ、と思われる方も少なくないと推察します。噓ではなく本当です。皆さん、ご自分で調べて確認してみて下さい。
このことに関して、少しでも現実感を持って頂きたいので、本コラム後半の【Column in Column】で、抗がん剤であるアルキル化剤の作用メカニズムを化学的に説明しました。アルキル化により、どのようにDNAが破壊されるのか、そのイメージを掴んでほしいのです。
抗がん剤治療によって、延命か、それとも命を縮めるのか
三つの抗がん剤の医学・医療的事実を前提に考えると、抗がん剤治療は、患者さんの命を延ばすのか、それとも縮めるのか、という問題が浮かび上がると思います。
しかし、これは難問です。ひとりの患者さんについて、抗がん剤治療を行った場合と行わない場合を比較することができないからです。また、抗がん剤治療を受けておられる患者さんが、副作用で苦しむ中で、命が延びたなあ、と実感できるのかどうか。
上述したアルキル化剤の他にも多くの抗がん剤がありますが、抗がん剤は、毒薬ですので、正常細胞を破壊して、間違いなく命を縮める方向に働きます。問題は、がん細胞をどのくらい破壊するかで、延命の程度が決まってくると考えられるとは思いますが・・。でも、どうなのでしょうか。
抗がん剤治療により、延命できるのか、それとも命を縮めるのかは、正直言いまして、私にはわかりません。仮に、延命が可能だとしても、それは、副作用の苦しみの中にあるほんの僅かな時間と思われます。私見ですが、その僅かな時間にこだわるのではなく、命の内容・質を大切にしたい、と私は思いますが、皆さんはどのように考えますか。
皆さん、是非、抗がん剤について勉強して下さい
前回と今回のコラムで、三つの抗がん剤の医学・医療的事実をご紹介しました。でも、本当か?と疑いを持たれている方もおられるかもしれません。皆さん、疑って終り、ではなく、ご自分で調べて勉強して下さい。入学試験や資格試験を受けるとき、必死で勉強しますよね。ましてや、抗がん剤治療は命に関わることですので、大いに勉強して頂きたいです。
がんという病そのものや治療について理解を深めるには、少しハードルが高いと思いますが、化学や生物学の勉強が必要と思います。がんは遺伝子(DNA)の病、ということが定説になっている今、DNAに関する分子生物学まで勉強の範囲を広げることをおすすめします。(がんが遺伝するという意味ではありません。)いざという時に備えて、元気な時に勉強して、準備することをおすすめします。
どのように勉強したらいいの?
多くの人は、スマートフォンやパソコンで検索すると思います。あとは、テレビ、本、知り合いの医療者・・。家族、親戚、友達などのがんの経験者に聞いてみる、というのも、あり、と思います。これらの情報の中には、正しくなく、信用できないものが多いですので、注意が必要です。特に、ネットは、良質の情報と非常に質の悪い情報が混在していますので、その見極めが重要ということを強調しておきます。
そして、情報というものは、発信者の立場による偏りが必ずあります。ですので、ひとつの発信元に頼るのは危険です。多様な発信元の情報に当たって頂きたいと思います。そして、あなたにとって正しいと思える情報を選び出してほしいのです。
治療の基盤は、主治医との関係
前回のコラムに書きましたが、治療の基盤は、あなたと主治医との良い関係を維持することにあります。抗がん剤治療について、主治医に相談し、情報をもらった上で、あなた自身が決めるのです。しっかりと勉強した上で、主治医との相談に臨むと、実りが多くなると思います。
そして、主治医とのコミュニケーションがうまくいかず困っておられる患者さんも少なくないと推察します。主治医に不安に思うことを質問してみたら、「それはこの前、言ったじゃないですか」と叱られてしまった、という患者さんがおられました。医師にとっては「この前言った」という思いがあるのでしょうが、患者さんにしてみれば、不安なことは何度でも確認したいのです。このような患者さんと医師のズレが積もり積もって、主治医への不信感に繋がることもあると思います。
当クリニックにできること①-主治医とのコミュニケーションがうまくいかず困っておられる方へ
主治医とのコミュニケーションがうまくいかない、には、いくつかのパターンがあります。上述したように、小さなズレが不信感に繋がることもあります。また、最初の段階から、主治医のことをあまり信用できない、と感じている患者さんもおられます。
主治医に、「抗がん剤治療を受けると余命は〇〇、受けないと余命は△△」と冷たく言われ、怖くなってしまい、医師に対する不信感を持った、という患者さんもおられます。医師の配慮のない言葉に傷つく患者さんはとても多いです。
患者さんと医師との関係には、難しいことが多々あります。あなたが置かれた状況について、じっくりとお聞きした上で、ご一緒に、コミュニケーションの工夫をし、解決策を見出したいと思っています。
当クリニックにできること②-抗がん剤治療のやめどきについて迷われている方へ
今、患者さんが受けられている抗がん剤治療は、患者さんが期待をこめて、よいと思って選択されたものと思います。私は、そのことを最大限尊重します。当クリニックのコラム『カウンセリングというけれど、どのように話を聞いてくれるのですか』に書きましたが、私は、患者さんが話されることを否定しません。批判もしません。
まずは、患者さんが置かれている状況について、じっくりとお聞きします。そして、患者さんと共に考え、医学知識と経験に基づいてアドバイスをさせて頂き、患者さんがご自分で決めることができるように相談に乗らせて頂きます。
まとめ:抗がん剤治療のやめどき(後編)ー命の内容・質を大切にする|藤沢駅徒歩5分 かつや心療内科クリニック(医師によるがん相談)
■抗がん剤は毒薬ですので、正常な細胞を破壊して、命が縮まる方向に傾きます。問題は、どのくらいがん細胞を破壊できるか。ある程度、破壊しても、がん細胞は再び増えてきます。■抗がん剤治療により、延命が可能だとしても、それは、副作用の苦しみの中にあるほんの僅かな時間でしょう。その僅かな時間にこだわるのではなく、命の内容・質が大切と思うのですが、いかがですか?■当クリニックは、命の内容・質に大きな関心を持っています。
【Column in Column】アルキル化剤(抗がん剤)の作用メカニズム:化学的イメージ
分子とは?
皆さんの体の中には、生命を維持するために、無数の分子が働いています。分子とは、H₂O(水分子)のように原子のまとまった集まりのことをいいます。
分子同士の弱いつながりは、体の中で重要な役割を果たしている
皆さんは、日々、多くの人たちと関わって生きていると思いますが、相手によって、つながりは強かったり弱かったりすると思います。体の中の分子同士もコミュニケーションしながら生命現象を営んでいます。分子同士のつながりも、お互いに強かったり弱ったりします。そして、体の中で大事な役割を担っているのは、分子同士の弱いつながりなのです(weak interaction)。分子同士が、軽く触れあいながら、大切な情報をやりとりしています。人間同士でも、強いつながりは息苦しいということもありますよね。分子同士も同じことなのかもしれません。
分子の形(構造)も大事です
分子の形(structure)も非常に大事です。分子同士のコミュニケーションは、鍵と鍵穴の関係で、お互いに相性がバッチリ合わないとコミュニケーションが成立しないのです。何らかの原因で、分子の形が乱れると大変なことになってしまいます。
私は、分子の形に関する実験をしたことがありますが、ちょっとした環境の変化で、簡単に形が変わってしまいます。でも、心配しないで下さい。体の中には、分子の機能を一定に維持するようなシステムがあるのです(homeostasis)。
アルキル化とは?
アルキル化とは、分子にアルキル基を結合させる化学反応のことです。
アルキル基とは?
化学式で書くと、CH₃‐やC₂H₅‐です。前者をメチル基、後者をエチル基といいます。エチル基に水酸基(OH‐)が結合すると、C₂H₅OH(エチルアルコール)となり、皆さんが普段飲まれているお酒です。このメチル基やエチル基などを総称してアルキル基といいます。
遺伝子(DNA)とは?
皆さん、「DNA」という言葉を聞いたことがありますか。体が作られ、正常に機能するためには、体の設計図が必要なのです。この設計図の基となる物質がDNAです。DNAは、人間の細胞の中の「核」という部分にあります。DNAの形は、たいへん綺麗な二重らせん構造をしています。
アルキル化剤は、DNAにアルキル基を強く結合させる
本コラムでは、アルキル基をメチル基で代表させたいと思います。DNAにメチル基を結合させることをDNAメチル化(DNA methylation)といいます。
抗がん剤であるアルキル化剤は、DNAを強制的にメチル化します。この場合、DNAとメチル基のつながりは、非常に強いです。先ほど、分子同士が弱く、ゆるく触れあうことにより、生命は維持されていると言いました。無数の分子が穏やかに触れあっている世界にとって、DNAとメチル基の強い結合は異次元のものです。また、DNAとメチル基の強い結合により、DNAの形は歪になります。
分子同士のコミュニケーションという面でも分子の形という面でも、アルキル化剤は、分子同士のコミュニケーションをかき乱し、体に致命的な影響を与えます。具体的には、DNAは複製されなくなり、細胞が破壊されてしまいます。これは、がん細胞だけではなく正常な細胞にも起こります。毒薬たる所以です。
イメージをお伝えすることを優先しましたので、化学的・分子生物学的には曖昧さが残ってしまいました。関心のある方は、下記の本を読まれることをおすすめします。
遺伝子の分子生物学
因みに、『遺伝子の分子生物学』(化学同人)という訳本があります。今は、別の出版社から出ているようです。著者は、ワトソンです。彼は、遺伝子(DNA)の構造を明らかにして、ノーベル生理学・医学賞を受賞しています。私は学生の時に、この本を読みました。たいへん興味深く、ワクワクして読んだことを思い出します。分子同士が弱く触れあうコミュニケーションは、この本から学びました。体のレベルで生命現象を理解するには、うってつけの本です。専門書ですが、関心のある方は手に取ってみて下さい。
院長 | 吉田勝也 |
---|---|
標榜科 | がん心療内科 |
資格 | 日本緩和医療学会 緩和医療認定医 厚生労働省 精神保健指定医 日本医師会認定 産業医 |
住所 | 神奈川県藤沢市南藤沢17-14 ユニバーサル南藤沢タワー403 |
申込用 メール アドレス |
gan-soudan@kzc.biglobe.ne.jp
電話番号は載せておりません 未掲載の理由はこちら |
連携医療機関 | 湘南藤沢徳洲会病院 藤沢市民病院 |
金曜日 | 13:00〜17:00(各50分〜4枠) |
---|---|
土曜日 | 10:00〜15:00(各50分〜4枠) |
金曜日と土曜日が祝日と重なる場合は休診
1回50分という十分な時間をお取りして、心理療法的枠組みの中で、じっくりと相談して頂ける体制を整えています。
その体制を維持するために、すべて自費診療とさせて頂いています。健康保険は使えませんのでご留意ください。