抗がん剤治療に、生きる希望の全てを託す患者さん ｜藤沢市のかつや心療内科クリニックは医師によるがん患者さんのこころを専門にした心療内科です

　当クリニックのコラム『抗がん剤治療のやめどき（前編・後編）』で、抗がん剤の医学・医療的事実を三つお伝えしました。これらは、厳しく辛い内容です。

　患者さんやご家族の中には、「今、抗がん剤治療をがんばっているんだし、そんなことを言われても困る」「長生きしたい、抗がん剤治療がこころの支えになっている」と思われている方は、少なくないと想像します。今回は、そのような方々の辛さに思いを馳せながら、『抗がん剤治療に、生きる希望の全てを託す患者さん』と題して、藤沢市のかつや心療内科クリニックからコラムをお届けします。

抗がん剤の「真相」と患者さんのお気持ちとの乖離

 コラム『抗がん剤治療のやめどき（前編・後編）』を書いているとき、私が今まで担当させて頂いた患者さんのことを思い出していました。2回のコラムでお伝えした、三つの抗がん剤の医学・医療的事実は、抗がん剤の「真相」を言い当てていると思います。しかし、その真相と、患者さんやご家族が置かれた状況やお気持ちとの間には、乖離があるのではないか、患者さんやご家族を辛い気持ちにさせているのではないか、と不安に思いながらコラムを書いていました。

主治医に抗がん剤治療は終りと言われ、号泣した患者さん

 もう、10年以上前の患者さんです。個人情報保護のため、論旨に影響を与えない範囲で、内容を大きく改変しています。

 30歳代男性、ご家族は、奥様と小さいお子さんが2人。がんと診断されて、手術と何種類かの抗がん剤治療を受けられました。遠隔転移もあり、痛みが強く、医療用麻薬もあまり効かない状態でした。

 ある日、外科の主治医から「これ以上、抗がん剤治療はできない」と言われたとき、この方は、「何を言っているのかわからない！」と叫び、号泣されました。私は、主治医に頼まれて、その場に立ち会っていたのです。

緩和ケア病棟で、もう一度、抗がん剤治療を受けたいと言う患者さんたち

 緩和ケア病棟には、がんの積極的治療が終った患者さんが入院されます。患者さんの中には、がん治療の主治医に「体力が戻ったら、また、抗がん剤をしましようね」と言われ、説得されて、緩和ケア病棟に入院している方がおられます。時折、次のように言う患者さんがおられます。「もう一度、抗がん剤治療を受けたいです！何とかなりませんか。」

死亡診断後に、抗がん剤が口の中から見つかった患者さん

 ある本で読んだのですが、自宅で療養していた患者さんだそうですが、死亡診断後に、医師が、患者さんの喉の奥に小さい粒を見つけたとのことです。取り出してみると、それは、抗がん剤のＴＳ‐１だったそうです。ご家族が、その粒をみつめながら「まだ、飲んでいたんだね」と呟き、その場に泣き崩れたそうです。

抗がん剤治療に、生きる希望の全てを託す

 上述のように、患者さんの抗がん剤治療に対する思いは、非常に強いものがあります。生きる希望を抗がん剤に全面的に託しているのです。

 「長生きしたい」「諦めきれない」「死にたくない」というお気持ちは、非常に強いと思います。ですので、抗がん剤の医学・医療的事実と言われても、これは、患者さんの思いとは乖離してしまうのだと思います。患者さんにとっては「そうかもしれないけど、そんなことを言われても、抗がん剤は効くと思っているんだから」「どうやって、生きる希望を持てというのか」という声が聞こえてきそうです。

まとめ：抗がん剤治療に、生きる希望の全てを託す患者さん｜藤沢駅徒歩５分　かつや心療内科クリニック（医師によるがん相談）

 私は、皆さんに役立ってほしいとの願いを込めて『抗がん剤治療のやめどき（前編・後編）』を書きました。しかし、皆さんの中には、抗がん剤治療の真相を見せられて、新たな苦しみや葛藤が始まったという方もおられると思います。

 希望を持ち続けたいから、抗がん剤治療を諦めきれないという患者さんやご家族のお気持ちはよくわかります。私は、皆さんのお話を批判も否定もしないで、お聞きしたいと思っています。そのことで、皆さんのお気持ちが少しでも楽になることをこころから願っています。