死ぬこと、生きること(第5号)―死に直面した患者さんの後悔と罪悪感
- TOP
- 死ぬこと、生きること(第5号)―死に直面した患者さんの後悔と罪悪感
死ぬこと、生きること(第5号)―死に直面した患者さんの後悔と罪悪感2024.04.01
死を、自分の生活から追いやりたい
人間の致死率は、100%です。そんなことわかってるよ、という声が聞こえてきそうです。みんな、頭ではわかっているのです。でも、このことを真正面から、自分のこととして受け止めている人は、極めて少ないと思います。自分だけは死なない、と思っておられる患者さんは少なくないと思います。そんなことあるか、と思われるかもしれません。でも、人間は、潜在意識の中で、自分だけは死なないと思っている節があるのです。
日常生活の中で、人間は、いつかは死ぬなどということを考えたくもないと思います。仕事で忙しい毎日を過ごしながら、家族や友人と美味しい料理や旨いお酒を楽しんでいる人は多いと思います。たまには、温泉旅館に泊まったり、海外旅行も。趣味に生きがいを見出している人も少なくないでしょう。多忙な生活に感けて、死のことなどは考える暇もないでしょう。いや、死を自分の生活から追いやりたいのです。
がん治療が終わったとき、死に直面する
がんの治療に目を転じてみたいと思います。多くの患者さんは、治療をものすごく頑張られます。何回も手術を受けられる患者さん、治験薬も含めた多くの種類の抗がん剤を試みられる患者さん。比較的、副作用が少ないと思われている放射線治療でも、重篤な副作用が出現することがあります。
頑張って、頑張り抜いても、残念ながら、治療がうまくいかないことがあります。主治医から「もう、これ以上の治療はできません」と言われ、患者さんは、非常に残念で悔しい思いをされます。主治医に見捨てられたと思われている患者さんも決して珍しくありません。このとき、死は、現実のものとして、患者さんの眼前に迫ってきます。もう、知らない振りをするには、難しい状況です。
何が、死に直面した人を支えるのか
元気なとき、遣り甲斐のある仕事が生きがいだったり、趣味に意味を見出されていたり、豊かな人間関係を楽しんでおられる方は多いです。しかし、病状が進んで、死が迫ってくると、誇りをもっていた仕事のことはどうでもよくなります。趣味の音楽も雑音でしかなくなると言う方もおられます。『死ぬこと、生きること(第2号)』に書きましたが、豊かな人間関係といっても、死にゆく患者さんにとって、人間関係は、以前と比べると、著しく変容したものに感じられるようです。自分は死んでゆくが、自分以外の人間は生き残る者、この両者の間の壁。この壁を前に、患者さんは、孤独感や疎外感に苛まれているようです。患者さんにとって、この壁は、越えがたいものに感じられているようです。
健康だった時には、仕事や趣味や人間関係など、それらは、大きな励みであり、支えだったのです。しかし、病状が進んできて、いよいよ、死に直面すると、それらのものに、自分を支える力は無いと思い知るのです。そして、死に対する不安や恐怖が襲ってきます。更に、患者さんは、過去を振り返り、たいへん苦しまれます。
死に直面した人の後悔と罪悪感
もちろん嬉しかったことや楽しかったことも回想されます。しかし、何故か後悔の方が圧倒的に大きいようです。「あの時、こうしていれば、もっと人生違っていたのではないか」、「傷つけてしまって絶縁状態にあるあの人と和解したいが、会いたくないと言われてしまった」、「自分の人生こんなものか・・」、「本当にこれでよかったのだろうか」、「あのこと、このことが気にかかって仕方がない」
「神様がいるのなら自分はゆるされているのでしょうか」と罪の意識を口にした患者さんもおられました。悔恨の情にかられ、絶対者にゆるしを求められたのでしょうか。朦朧とした意識の中で言われましたので、どのようなお気持ちかを確認することはできませんでした。
後悔や罪悪感などという言葉では表現できないようなどうしようもない何かを感じている方もおられるでしょう。自分の力では決して這い上がることのできないような深みにはまってしまった感覚かもしれません。
人は皆、死にます。死が人間の限界です。人生の強制終了ですから、何も解決されることなく死を迎えます。人生を未完成なままで終えなければなりません。全てを手放し、全てから手放されるのです。故に、死を前にして、上記のような後悔や罪悪感が出てくるのも無理もないと思います。
*『死ぬこと、生きること(第6号)』に続きます。
今後、内容は次々と展開していきますので、是非、お読み下さい。読むには辛い内容と思います。このような内容はもうしばらく続きます。次のステップに進むための基盤作りと思って頂き、お付き合い下さると嬉しいです。
院長 | 吉田勝也 |
---|---|
標榜科 | がん心療内科 |
資格 | 日本緩和医療学会 緩和医療認定医 厚生労働省 精神保健指定医 日本医師会認定 産業医 |
住所 | 神奈川県藤沢市南藤沢17-14 ユニバーサル南藤沢タワー403 |
申込用 メール アドレス |
gan-soudan@kzc.biglobe.ne.jp
電話番号は載せておりません 未掲載の理由はこちら |
連携医療機関 | 湘南藤沢徳洲会病院 藤沢市民病院 |
金曜日 | 13:00〜17:00(各50分〜4枠) |
---|---|
土曜日 | 10:00〜15:00(各50分〜4枠) |
金曜日と土曜日が祝日と重なる場合は休診
1回50分という十分な時間をお取りして、心理療法的枠組みの中で、じっくりと相談して頂ける体制を整えています。
その体制を維持するために、すべて自費診療とさせて頂いています。健康保険は使えませんのでご留意ください。