死ぬこと、生きること(第1号)―患者の気持ち、家族の気持ち |藤沢市のかつや心療内科クリニックは医師によるがん患者さんのこころを専門にした心療内科です

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死ぬこと、生きること(第1号)―患者の気持ち、家族の気持ち

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死ぬこと、生きること(第1号)―患者の気持ち、家族の気持ち2023.04.01

がん相談コラム『死ぬこと、生きること』始めます
 今後、『死ぬこと、生きること』と題した文章を、時々ですが『がん相談コラム』に掲載します。様々な視点から生きることと死ぬことを考えてみたいと思います。一見、一話完結に見えることもあると思いますが、連続ものですので、内容は次々と発展していきます。皆さんが、生きる意味について考える時の参考にして頂けたらと思います。死に関する話もたくさん出てきますので、気にしやすい方は、もしかしたら読まれない方がよいかもしれません。

 それでは、第1号の本題に入りたいと思います。皆さんにとって、生きることの基盤は何でしょうか。様々なお答えがあると思います。人間関係と言われる方も少なくないと想像します。家庭でも職場でも学校でも、多くのことが人間関係によって大きく左右されてしまうことは、皆さんもしばしば経験されていると思います。今回は、がんの患者さんとご家族との関わりについて、『かつや心療内科クリニック』から『死ぬこと、生きること(第1号)―患者の気持ち、家族の気持ち』と題して、がん相談コラムをお届けします。

食べられない患者、食べさせたい家族

 ホスピス病棟(緩和ケア病棟)に勤務していたとき、毎日のように目にする光景がありました。がんの病状が進んだ患者さんに、ご家族が料理を作って食べさせてあげている、というものです。ちょっと食べるのは難しいだろうな、と思うこともしばしばありました。患者さんは、「こんなの食べられない」と言い、顔をゆがめています。ご家族は「食べないと体力がつかないから食べてよ」と怒気さえ含んだ口調で料理をすすめています。

 がんの患者さんは、病状が進んでくると、いろいろな理由により食事が難しくなります。ご家族に、食事ができる状態ではないことを画像や検査結果をお見せしながら説明するのですが、ご理解いただけないことも多かったです。ご家族としては、病状が重いことを受け容れたくないお気持ちがあるのです。無理もないことと思います。

患者と家族のすれ違い

 がんと診断された患者さんは、不安で仕方がない気持ちを家族にわかってほしい、優しく配慮してほしいという思いになります。ご家族は、不安に押しつぶされそうになりながらも、できることなら何でもしてあげたい、というのが正直なところと思います。しかし、患者さんとご家族の気持ちがすれ違うことも多いです。がんと診断される前のすれ違いが、更に増幅されてしまうこともあります。

何故、すれ違いが起こるのか

 人間関係のすれ違い、人と人とのぶつかり合いは、何もがんの患者さんとご家族の間に限ったことではありません。家族、職場、学校、趣味の集まりなどなど、人間がいるところならどこにでも常にあります。私は、ストレスの多くは人間関係のすれ違いによるものと思っています。一見、人間関係によるものではないように思えても、そこには必ず人間の思惑がはたらいているからです。

 何故、こんなにすれ違いが起こるのでしょうか。皆さんは、何故だと思われますか・・。私は、人間の本質について、こう思うのです。人間は、《自分》の思いや立場や視点でものを考え行動してしまう、からだと思います。「いいえ、私はそんなことはありません。いつもあの人のことを考えて行動しています」と思う方もおられるでしょう。しかし、「いつもあの人のことを考える」の中に、《自分》の思いや立場や視点、が少しばかり混ざっていないでしょうか・・。卑近な例ですが、夢見心地の恋人同士(夫婦、親子、同僚、友達・・)、お互いわかり合っている(錯覚です)と思っていたのに、気づいたら全く別々の方向を向いていた、というようなことは日常茶飯事ではないでしょうか。

 《自分》の思いや立場や視点でものを考え行動してしまうこと、どうがんばっても、私たちはこれを越えられないと思うのです。故に、これはもう、人間の限界としか言いようがないと思います。

人間関係という不安定で危うい基盤

 《自分》の思いや立場や視点でものを考え、行動してしまう私たち、人間なら例外なくこのような本質を抱えていますので、私たち一人ひとりが作り出す人間関係は、すぐにぐらつき非常に壊れやすいです。故に、私たちは、非常に不安定で危うい基盤の上で暮らしていると言えます。

 がんの患者さんは、死に直面しています。ご家族はそのような患者さんと一緒に暮らしています。通常よりもその関係は複雑になり、より脆いものになっていると思います。では、私たちにできることは何でしようか。

自分がしてほしいと思うことを相手にもしてあげる

 がんに罹った今だからこそ、上記のような人間の本質を持ちながらも、患者さんが望んでいることに耳を傾ける、察する、ということが望まれると思うのです。自分がしてほしいと思うことを相手にもしてあげるということ。そんなことを言われても、実行するとなるとちょっと難しい、なかなかたいへん、と思う方もおられると思います。その通りと思います。しかし、人間関係という危うい基盤を少しでも居心地のよいものにしていくために、このことは大事だと思うのです。

 先ほど、食べられない患者さんと食べさせたいご家族のお話をしました。ご家族はなぜ、患者さんに食べてほしいのでしょうか。食べないと体力がつかないから、それもあるでしょう。でも、ご家族は、どんどん衰弱していく患者さんを見ることに耐えられないということもありますし、自分は何もしてあげられない、という罪悪感もあると思います。がんの患者さんやご家族のお気持ちは複雑で推し量ることさえ難しい時があります。ご家族は医師からの病状の説明を受け、納得し、現状を受け容れ、その上で、上記のような複雑な思いを乗り越えて初めて、患者さんの求めていることに耳を傾けることができるのかもしれません。この過程は様々あると思います。いずれにしても、この過程には死の受容というプロセスが絡んできますので、患者さんの思いに添うことは並大抵ではありません。何故ならば、丸腰で死を受容できる人はいないと思うからです。私は、死にゆく患者さんと生き残る人との間には、厚くて越えられそうにもない壁を感じることがあります。このことについては、がん相談コラム『死ぬこと、生きること(第2号)』でお話する予定です。

小さなことの積み重ねがあなたの『情報』になる

 自分がしてほしいと思うことを相手にもしてあげること、上述したように非常に難しいことですが、ほんの小さなことでも一つひとつ積み重ねていくと、その結果として、あなたは貴重な経験をすることになるかもしれません。その経験が、あなたにとって生きるための情報になるかもしれません。『がん相談コラム2023.03.01号』で情報についてお話しましたが、あなたにとって本当に役に立つ『情報』は、誰かから与えられるものではなく、あなたの経験が指し示す何か、なのかもしれません。繰り返しになりますが、お勧めします。小さなことでも、一生懸命に一つひとつ積み重ねていってみませんか。少しでも居心地がよく安心できる基盤を作り上げるために。
 ・・・一つひとつの積み重ねにより、あなたはどのような経験をしましたか? 何か、得られたものはありましたか?

スープでも飲んで一息入れて下さい

 お話が入り組んでしまいました。話を料理に戻しますが、ご家族の料理を作って食べさせてあげたいというお気持ちはよくわかります。食べることが難しい患者さんには、しばしば、スープが喜ばれます。患者さんが望まれるなら、心を込めて滋養のあるスープを作って差し上げてはいかがでしょうか。料理家の辰巳芳子さんは、著書、『あなたのために―いのちを支えるスープ』の中で「人が生を受け、いのちを全うするまで、特に終りを安らかにゆかしめる一助となるのは、おつゆものと、スープであると、確信しております。願わくは、日本の病院食にこの本が貢献しうる日がありますように」と述べています(文献)。私は、この本のスープの写真を見るのがとても好きです。

 料理ではなくても、して差し上げられることは多いと思います。ご家族が傍にいてくれるだけで嬉しいと言われる患者さんは多いです。患者さんと一緒に、スープでも飲んで一息入れて下さい。スープを作るのはたいへん手間がかかりますので、インスタントのものでもよいですよ。

 がん相談コラム『死ぬこと、生きること(第2号)』を楽しみにしていて下さい。掲載は、6月の予定です。皆さんのお役に立てるように、わかりやすく書いてみたいと思っています。

文献
辰巳芳子:あなたのために―いのちを支えるスープ、学校法人文化学園 文化出版局、2002年

概要 概要

院長 吉田勝也
標榜科 がん心療内科
資格 日本緩和医療学会 
緩和医療認定医
厚生労働省 精神保健指定医
日本医師会認定 産業医
住所 神奈川県藤沢市南藤沢17-14
ユニバーサル南藤沢タワー403
申込用
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アドレス
gan-soudan@kzc.biglobe.ne.jp
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連携医療機関 湘南藤沢徳洲会病院
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1回50分という十分な時間をお取りして、心理療法的枠組みの中で、じっくりと相談して頂ける体制を整えています。
その体制を維持するために、すべて自費診療とさせて頂いています。健康保険は使えませんのでご留意ください。

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